Q 米国法人が、インターネット上のウェブサイトにて、弊社が海外腐敗防止法に違反したとする記事を掲載しています。弊社は、この米国法人に対し、名誉毀損を理由に損害賠償請求を検討していますが、日本の裁判所で訴訟を提起できるでしょうか。

A 本件のような不法行為を理由とする訴訟は、不法行為地が日本にあれば、外国法人に対しても日本の裁判所において訴訟を提起できるのが原則です。しかしながら、例外的に、本件事案の性質、米国法人が日本の裁判に応じる負担や、貴社を違法と認定した調査資料や証人の所在地等によっては、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められず、訴えが却下される可能性があります。また、日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、外国で判決を執行する必要性がある場合は、執行の可能性及び容易性なども考慮して、どこの国で裁判を提起するかを決める必要があるでしょう。

 

1 米国法人に対する訴訟について

日本の民事訴訟法は、日本の裁判所が国際裁判管轄を有する場合についての規定を置いています。いずれの国でも、被告の所在地での裁判管轄を認めることが一般的であり、日本の民事訴訟法も同様です。また、被告の所在地以外でも、裁判管轄が認められる場合が定められており、例えば、契約上の債務の履行請求に関する訴えの場合、債務の履行地が日本であれば、日本の裁判所に提起できます。

本件では、名誉毀損という不法行為が問題となっていますが、民事訴訟法は、「不法行為があった地が日本国内にあるとき」は日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるとしています(民訴法第3条の3第8号)。ここでいう「不法行為地」とは、原因行為の行われた地のみならず、結果発生地も含むとされていますので、米国法人がインターネット上に貴社の名誉を毀損する内容の記事をアップしている場合、日本国内において、名誉毀損という結果が発生したと言えるでしょう(民事訴訟法は、「外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することができないものであったときを除く」としていますが、投稿した米国法人は、日本法人である御社の記事を投稿した以上、日本国内で結果が発生することを予見できないとはいえないでしょう)。

したがって、貴社は、該当の米国法人を日本の裁判所で訴えることができるのが原則となります。

 

2 訴えを却下すべき特別の事情がある場合

(1)上記は原則ですが、民事訴訟法は、日本の裁判所が国際裁判管轄を有する場合であっても、例外的に「事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情」があるときはその訴えを却下することがある旨を規定しています(民事訴訟法第3条の9)。

 

(2)実際に、米国法人がそのウェブサイト上に、日本法人が米国の海外腐敗防止法に違反した結果、定款違反として日本法人が有する米国法人の株式を強制的に償還する旨を決議した旨を掲載したという事案において、日本法人が日本の裁判所において提起した名誉毀損に基づく損害賠償請求に対し、裁判所は「特別の事情」を認めて訴えを却下しています(最高裁平成28年3月10日民集70巻3号846頁)。

「特別の事情」として裁判所が考慮したものは、以下のような事情でした。

・本件においては、当事者間で、米国において、株式の強制償還に関し米国法人が合法に行動したことの確認請求の訴訟が既に提起されていたところ、本件訴訟は、かかる米国訴訟に係る紛争から派生したものであること

・本件訴訟と共通・関連する点が多い米国訴訟の状況に照らし、主な争点についての証拠の文書の大部分は英語で作成され、証人の大半は米国に在住し、日本語に通じないなど、想定される争点の証拠方法は主に米国に所在すること

・当事者らは、米国法人の経営に関する紛争については、米国での交渉、提訴を想定していたこと

・実際に日本法人は、米国訴訟において応訴するのみならず、反訴も提起しているので、本件訴訟を米国で提起したとしても過大な負担とはならないこと

・上記の証拠を日本の裁判所で取り調べることは米国法人にとって過大な負担を課すことになること

この事案においては、ウェブサイト上の記載は、米国法人の運営(同社による株式の償還)に関する紛争から派生したものであり、かつ、米国で関連訴訟が係属していたことが重要視されていると思われます。実際の訴訟においては、具体的な事案に応じて個別に①事案の性質、関連訴訟の存在、②証拠の所在地、③当事者の予測可能性、④両当事者の負担などを検討して、「特別の事情」の有無が判断されることになりますが、単に、外国の裁判所に関連訴訟が存在するというだけでは、日本の裁判所に国際裁判管轄を否定する「特別の事情」があるということにはならないと思われます。

 

(3)なお、外国法人に対し、日本の裁判所において勝訴判決を得たとしても、当該法人が日本に財産を有していない場合などは、財産が所在する外国において日本での判決の執行を行うことが必要となります。訴訟提起の場合、執行の面まで考慮して、いずれの裁判所に裁判を提起することが適切かを検討する必要があるといえます。

(文責:弁護士 中野大地

A 本件のような不法行為を理由とする訴訟は、不法行為地が日本にあれば、外国法人に対しても日本の裁判所において訴訟を提起できるのが原則です。しかしながら、例外的に、本件事案の性質、米国法人が日本の裁判に応じる負担や、貴社を違法と認定した調査資料や証人の所在地等によっては、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められず、訴えが却下される可能性があります。また、日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、外国で判決を執行する必要性がある場合は、執行の可能性及び容易性なども考慮して、どこの国で裁判を提起するかを決める必要があるでしょう。

 

1 米国法人に対する訴訟について

日本の民事訴訟法は、日本の裁判所が国際裁判管轄を有する場合についての規定を置いています。いずれの国でも、被告の所在地での裁判管轄を認めることが一般的であり、日本の民事訴訟法も同様です。また、被告の所在地以外でも、裁判管轄が認められる場合が定められており、例えば、契約上の債務の履行請求に関する訴えの場合、債務の履行地が日本であれば、日本の裁判所に提起できます。

本件では、名誉毀損という不法行為が問題となっていますが、民事訴訟法は、「不法行為があった地が日本国内にあるとき」は日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるとしています(民訴法第3条の3第8号)。ここでいう「不法行為地」とは、原因行為の行われた地のみならず、結果発生地も含むとされていますので、米国法人がインターネット上に貴社の名誉を毀損する内容の記事をアップしている場合、日本国内において、名誉毀損という結果が発生したと言えるでしょう(民事訴訟法は、「外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することができないものであったときを除く」としていますが、投稿した米国法人は、日本法人である御社の記事を投稿した以上、日本国内で結果が発生することを予見できないとはいえないでしょう)。

したがって、貴社は、該当の米国法人を日本の裁判所で訴えることができるのが原則となります。

 

2 訴えを却下すべき特別の事情がある場合

(1)上記は原則ですが、民事訴訟法は、日本の裁判所が国際裁判管轄を有する場合であっても、例外的に「事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情」があるときはその訴えを却下することがある旨を規定しています(民事訴訟法第3条の9)。

 

(2)実際に、米国法人がそのウェブサイト上に、日本法人が米国の海外腐敗防止法に違反した結果、定款違反として日本法人が有する米国法人の株式を強制的に償還する旨を決議した旨を掲載したという事案において、日本法人が日本の裁判所において提起した名誉毀損に基づく損害賠償請求に対し、裁判所は「特別の事情」を認めて訴えを却下しています(最高裁平成28年3月10日民集70巻3号846頁)。

「特別の事情」として裁判所が考慮したものは、以下のような事情でした。

・本件においては、当事者間で、米国において、株式の強制償還に関し米国法人が合法に行動したことの確認請求の訴訟が既に提起されていたところ、本件訴訟は、かかる米国訴訟に係る紛争から派生したものであること

・本件訴訟と共通・関連する点が多い米国訴訟の状況に照らし、主な争点についての証拠の文書の大部分は英語で作成され、証人の大半は米国に在住し、日本語に通じないなど、想定される争点の証拠方法は主に米国に所在すること

・当事者らは、米国法人の経営に関する紛争については、米国での交渉、提訴を想定していたこと

・実際に日本法人は、米国訴訟において応訴するのみならず、反訴も提起しているので、本件訴訟を米国で提起したとしても過大な負担とはならないこと

・上記の証拠を日本の裁判所で取り調べることは米国法人にとって過大な負担を課すことになること

この事案においては、ウェブサイト上の記載は、米国法人の運営(同社による株式の償還)に関する紛争から派生したものであり、かつ、米国で関連訴訟が係属していたことが重要視されていると思われます。実際の訴訟においては、具体的な事案に応じて個別に①事案の性質、関連訴訟の存在、②証拠の所在地、③当事者の予測可能性、④両当事者の負担などを検討して、「特別の事情」の有無が判断されることになりますが、単に、外国の裁判所に関連訴訟が存在するというだけでは、日本の裁判所に国際裁判管轄を否定する「特別の事情」があるということにはならないと思われます。

 

(4)なお、外国法人に対し、日本の裁判所において勝訴判決を得たとしても、当該法人が日本に財産を有していない場合などは、財産が所在する外国において日本での判決の執行を行うことが必要となります。訴訟提起の場合、執行の面まで考慮して、いずれの裁判所に裁判を提起することが適切かを検討する必要があるといえます。

(文責 弁護士 中野大地)