Q 借地上に所有している建物について、防水塗装やコーキング等のメンテナンス工事をしたいと考えていますが、地主は、借地契約で地主の事前承諾が必要とされている大修繕に該当すると主張しています。大修繕に該当するかどうかを事前に確定したいのですが、どのような手続を採るべきでしょうか。

A 工事の実施につき、地主から事前承諾を得る義務のないことの確認を求める訴訟を地主に対して提起する方法が考えられます。

 

1 借地契約における大修繕禁止特約

借地契約では、借地上に建築された建物につき借地人が大修繕を行う場合には、地主から事前承諾を得ることが特約で義務付けられていることがあります。このような特約を一般的に大修繕禁止特約といいます。大修繕禁止特約が規定される趣旨は、建物の耐用年数が大幅に延長されて、借地権の存続期間に影響を及ぼすことを避けることにあります。そのため、大修繕禁止特約により禁止される大修繕とは、「建物の主要構造部分の全部ないし過半を取り替える工事のように、建物の耐用年数に大きく影響を及ぼすような工事」(東京地判平成24年11月28日)ないし「建物の柱、土台等の主要構造部分の取替えや屋根の全面葺替えなどによって、通常予期すべき以上に建物の耐用年数に大きく影響を与えるような修繕」(東京地判平成28年3月9日)と限定的に解されています。

 

2 地主から事前承諾を取得する義務がないことを確認するための手続

(1)大修繕禁止特約に違反して無断で大修繕を実施すると、地主から借地契約を解除されることがあります。そこで、借地人としては、大修繕禁止特約に違反しない程度の工事であることを事前に確認してから工事を実施したいと考えることが自然ですが、そのための特別な手続は民法や借地借家法に規定されていません。なお、借地借家法第17条第2項は、増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が整わないときは、裁判所は借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができると規定していますが、これは増改築に該当することを前提とした手続ですので、設問のように大修繕の該当性につき争いがある場合に利用すべきではありません(増改築の該当性につき争いがある場合も同様です。)。

(2)したがって、借地人としては、一定の権利又は法律関係の存否について確認を求める確認請求訴訟の提起を検討すべきです。確認訴訟は、原告の権利又は法的地位に現に危険や不安が存し、それを除去解消させるために、一定の権利又は法律関係の存否について確認判決を得ることが必要かつ適切である場合に限り、確認の利益があるとして認められます。設問のように、地主との間で大修繕の該当性について争いがある場合に、借地人が地主の承諾なしに修繕工事を実施すると、大修繕に該当することを理由として地主から借地契約を解除されてしまう危険性があります。借地人がこのような不可逆的かつ甚大な不利益を被る危険や不安を除去解消するために、地主から事前承諾を得る義務がないことを確認するための訴訟を提起することは、まさに紛争解決に必要かつ適切といえるでしょう。よって、設問のような事案においては、一般的に確認の利益は認められると考えられます。

 

3 小括

(1)以上のとおり、借地契約で禁止されている大修繕に該当するか否かについて、借地人と地主の間で争いがある場合には、地主から大修繕修繕特約に基づく事前承諾を得る義務がないことの確認を請求する訴訟を地主に対して提起する方法があります。しかし、予定している工事が大修繕に該当するかどうかについては、特約の趣旨や裁判例の内容を踏まえた慎重な検討が必要です。また、確認訴訟においては、いかなる工事を実施する予定であるのかについて、審理及び判決をするために必要な限度で具体的に特定することが必要ですが、まだ実施していない工事内容を事前に特定することは容易ではありませんので、訴訟提起前に十分な準備が必要となります。

(2)なお、借地契約に増改築の禁止特約が規定されており、増改築に該当するか否かについて借地人と地主の間に争いがある場合についても、上記と同様に考えられます。

(文責:弁護士 曽根 翼