Q お店のレジを任せている従業員が、1000円札をレジから自分のポケットに入れていることが防犯カメラの映像で明らかになった。当該従業員を懲戒解雇しようと考えているが、1000円であっても懲戒解雇は可能でしょうか。

A わずか1000円であっても、その従業員の担当する職務等いかんによっては、懲戒解雇は可能である。

まず、懲戒解雇処分を下すためには、処分の対象となる行為が就業規則上の懲戒解雇事由に該当することが必要です。
就業規則に対象行為を罰する規定がなければ、そもそも懲戒解雇処分を行なうことが出来ません。

また、対象行為が就業規則に規定されていたとしても、労働契約法15条において、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と規定されています。
そこで、単に就業規則の懲戒規定に形式的に該当するだけでは足りず、対象行為と処分との間にバランスが保たれていなければなりません。
すなわち、懲戒解雇処分を下すのであれば、対象行為にはそれ相応の悪質性が備わっていることが必要となります。

この悪質性を判断するに当たり、使用者が被った損害の多寡は重要なファクターとなりますので、わずか1000円の損害では、懲戒解雇処分は不相当とも評価される場合もあります。

しかし、小売店は商品の販売を経営の基盤とするところ、レジの担当者が売上金をレジから盗む行為は、その経営の基盤を揺るがすことになります。また、レジ担当者は、その店舗における売上金を管理する職責を有し、金員の扱いについて責任ある立場にあります。
それにもかかわらず、金員を意図的に着服したのですから、軽微な処分で済ませてしまったのでは、会社の秩序を維持することが困難となります。

当然諸般の事情を考慮した上での判断となりますが、このような担当する職務の内容や重要性とのバランスを考慮した場合、懲戒解雇も可能となる場合があります。
なお、裁判例上、バスの運転手が乗客の支払った運賃1100円を領得した事案において、懲戒免職を有効と判断した例があります(東京地裁平成23年5月25日判決)。

なお、設問の事例では防犯カメラの映像という証拠があり、横領行為を十分に立証できるということが上記の前提となっています。
実際の訴訟等においては、横領行為の有無や金銭領得の意思の有無が争われることも多く、証拠の有無や内容によっては結論が異なる可能性もありますので、処分にあたっては慎重な検討が必要です。

(文責:弁護士 小林和人